稲穂の海 

原作寄り
黎夕



SNS白友のるる様の素敵SSに挿し絵描かせていただきました♪

良かったら素敵なお話をお楽しみ下さいませ~






【原作寄り】【黎翔×夕鈴】


いつものように夜夕鈴を訪ねると、めずらしく人払いをしているらしい。
居間に入り見てみれば夕鈴は手紙を読んでいた。

そう言えば弟君から手紙が届いたと李順が言っていたな。

一瞬また厄介事かと心配になったが、手紙を読む彼女は優しい顔をしていて安心する。

だが。
夕鈴が弟君を溺愛しているのは知っている。
直接会ったこともあるし、姉思いのいい弟だとも思う。
一緒に生きてきた時間が僕より長いのも解っている。
それでも、この優しい笑みを引き出したのが自分ではないのが少し悔しい。

自分の狭量さに自嘲的な哂いがくすりと漏れる。

「あっ、陛下!すみません、気がつかなくて」
僕に気付いた夕鈴は、手紙を卓に置き迎え入れてくれた。
「弟君からの手紙?何か良いことでも書いてあったのかな」
それまでの想いを隠しにっこり笑うと、夕鈴もにこにこ笑いながら答える。
「はい!学問所の先生に褒めて頂いたらしくて、もう嬉しくて!」
「そっかあ。青慎君頑張ってるんだね」
長椅子に座りながら言うと、夕鈴はお茶を入れる手を止めて満面の笑みで振り返った。
「はい!」
それが本当に嬉しそうで、また小さな嫉妬が心に芽生えた―――




最近の政務室は連日の暑さで仕事がなかなか捗らない。官吏共がへろへろなのだ。
仕方がないと思う反面、暑いのは誰も同じだと腹立たしくもある。
常ならば苛立ちに心が持って行かれるのだが、今日は夕鈴が政務室に来てくれていた。

官吏と違い妃衣装は熱が逃げにくくこの時期はさぞかし大変だろう。
頑張り屋の彼女に、感心する反面心配になる。

暑さに頬を染める夕鈴は、周りが仕事中なせいか真面目な表情だ。
その様子が何やら告白を前に緊張している様にも見えてしまう。
とても可愛いのだが・・・そんな顔で他の男を見て欲しくない。

「夕鈴」
軽く溜息をつきながら立ち上がると、咳払いをする側近を無視し夕鈴に歩み寄る。
「今日は早めに湯を使い充分に涼んでおいてくれ。夜は熱がさめる暇を与えてやれない」
言い終わった途端、周りが一瞬息を呑む気配がした。
年若い官吏の中には頬を染めた者もいる。
「?はい」

・・・解ってたけどね。ちゃんと伝わらないのは夕鈴だけだって。
不思議そうに見上げる顔も可愛くて苦笑が浮かぶ。
でもこのまま帰すのも少し惜しいな。
僕は夕鈴の汗ばんだ首に手を差し入れ親指で顎を上げると、額を合わせ意地悪く笑った。
「―――いい子だ」
夕鈴は完全に固まった後、暑さで赤くなっていた顔を更に染めた。
僕だけが引き出せるその様子に満足する。

「陛下」
もう少し構おうかと考えた時、李順の冷たい声が響いた。
やれやれ。
溜息をひとつついて仕事に戻る。
夕鈴がぎくしゃくした歩みで政務室を出て行くのを見ながら。




夕鈴が退室した後激を飛ばしまくりその日の政務を早目に終えた僕は、軽く湯を使い彼女の室に向かった。
涼しいとは言い難いがさすがに昼程ではなく、そよぐ風も心地良い。

回廊を涼みながら進んでいると、庭できらりと何かが光る。
反射的に目をやれば、少し離れた四阿に夕鈴が座っていた。
生真面目な彼女は、意味が解らないながらも僕が言った通りゆったりと涼んでいるようだ。
そちらに向きを変え歩いていくと、時折強く吹く風に髪が浚われきらきらと西日を反射していた。
色素の薄い彼女の髪は遊ぶように流れ煌き、まるで稲穂の海のようだ。
数年前に視察した水田が思い出され、その時は感じなかった想いがこみあげる。

・・・ああ、美しいな。

何故その時にそう思えなかったかは考えるまでもない。
夕鈴を知らなかったから。
今同じ景色を見ることができるなら、きっと美しいと感じられるだろう。
そしてその時には隣に夕鈴もいて欲しい。
自分よりも感情が豊かな彼女の心をそのまま感じてみたい。

「夕鈴」
声をかけると夕鈴は立ち上がり、満面の笑みで迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、陛下」

愛しい。

想いが溢れそうになる。
押さえきれない気持ちのままきゅっと抱きしめると、夕鈴は一瞬固まった後真っ赤になった。
「えっ、ちょっ、あのっ」
恥ずかしそうにもじもじしている夕鈴を腕に閉じ込めたまま囁く。
「―――秋になったら稲穂を見に行かない?」
「稲穂、ですか?」
おずおずと顔を上げた夕鈴は、突然の話を不思議に思ったのだろう、首を傾げている。
「うん、少し北の田園地帯に。風に揺れる稲穂の海を夕鈴と見たい」
黄金色に重く垂れた一面の稲穂を戯れに風が過ぎる。
そよそよと揺れる様子を、風の軌跡を感じながら夕鈴と眺める。
それはきっととても幸せなひと時だろうと思えた。

稲穂の海


「・・・海・・・」
「夕鈴は海、見たことない?」
「はい。私は王都から出た記憶はほとんどありませんから」
「そっか。じゃあいつか海も見に行こう」
「・・・はい」
そう答えた彼女の顔は少し寂しそうに見えた。
夕鈴はあまり先の約束はしたがらない。
真面目な彼女は、果たせないかもしれない約束をするのは後ろめたいのだろう。
でも、必ず叶えてみせる。
「約束だよ」

今は気持ちが伝わっていなくても、小さな約束を思い出に変えていければ良い。
一人では趣がない世界でも、きっと夕鈴が隣にいてくれれば僕の心にも色鮮やかに映るだろう。
そして彼女の思い出の中にも僕を増やしてゆく。
出合ってからの時間は今はまだ長くなくても、そんな小さな幸せを綴ってゆけば良い。
僕が欲しいとも願う事すら出来なかったそれらは、夕鈴がいれば取り戻せる。
そう、思った。

「だから」
君を手放さない。
「僕は諦めないからね」
僕と一緒に生きていきたいと願わせてみせる。

「何をですか?」

僕はそれには答えずにっこり笑いながら、不思議そうに聞く夕鈴の髪に口付けを落とした。




*-*-*-*


るる様ありがとうです!





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