しーそーげーむ 【そのに】  

原作寄り
黎夕
本物恋人設定


お話:ぴいこさん
絵:ダリ子/からあげさん



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《しーそーげーむ》




「おかえりなさいませ!……」

 ばばん!っと気合を入れて出迎えた夕鈴の「陛下」という言葉は、部屋に入るなりきつく抱きしめた黎翔に飲み込まれた。

「ンん?…………ん…………はぁっ」
 長い長い口づけからようやく解放された夕鈴は、少しだけ恨めしそうに黎翔を見上げる。
「陛下?」
 夕鈴の潤んだ瞳と、上気した頬。そして、自分を受け入れるように背中に回された手が黎翔の心をくすぐる。黎翔は、そっと夕鈴の頬に口づけする。

 くすぐったさから、片目を閉じた夕鈴は、微笑みながら言う。

「なんだか、甘えん坊ですね。どうなさったのですか?」
「少し……、心が落ち着かない事があってね」
 そう言いながら、再び口づけをしようとした。その顔を夕鈴が、両手で挟んで距離を取る。
「どうかしたのですか?少しお疲れですか?今、お茶を入れますから、ここに座っていてください」

 夕鈴は、黎翔を椅子に座らせるとてきぱきとお茶の支度を始めた。茶葉を選び、茶器を選びと、自分の為に夕鈴がめまぐるしく働いてくれる姿は愛らしくもあり、黎翔は素直に喜んだ。しかし、放って置かれているようで少し寂しくもある。
 だから黎翔は、一先ず先に茶菓子を置きにやって来た夕鈴の腕を捕まえて引き寄せた。口づけをする為に。しかし、夕鈴はそれを受け入れず、諌める様に黎翔の唇に指を当てた。
「ちょっと待ってください。今は、その、そういうのはやめましょう?」
「そういうの、とは?」
 黎翔は、夕鈴の反応を楽しみながら指先を弄ぶ様に口づけする。
(ううっ、なんで狼なの?!)
 黎翔の視線に戸惑いつつ、夕鈴は答えた。
「きちんと陛下のお話しを聞きたいんです。口づけしてしまうと、その、うまく考えられなくなってしまうから。だから、口づけは無しでお願いします。…………って、陛下。聞いてます?」
「聞いているよ?」
 そう言いつつも、黎翔は夕鈴の指先への口づけを止めない。
「もう、陛下?!」
「あぁ、そう言えば、口づけは無しなのだったな」
 そう言って、黎翔は夕鈴の指先に噛み付いた。

0914-1

「?!……なっ!何?!」

 夕鈴は、目をまん丸に見開くと噛み付かれた指先を抱えながら黎翔を見つめた。

「何?とは?」
 対する黎翔は、頬杖をつきながら冷静に夕鈴を見上げる。
「なんでいきなり噛み付くんですか!」
「口づけは無しなのだろう?ーーーー、君は私の想いなど分かってはくれないのだろうな」
 黎翔の瞳に切なさが混じり、夕鈴は狼狽えた。
「え?」
「君はただ、官吏の頭に乗った木の葉を取った。ただそれだけなのに、その相手が私ではないというだけでこんなにも心が掻き乱されてしまうんだ」
 目の前にいるのは、弱りきった狼陛下。夕鈴は、無意識に歩み寄った。黎翔は、夕鈴を抱き締める。その力の強さが夕鈴には心地良い。
「ご覧になっていたのですか?」
「ん」
 黎翔は、しょんぼりしたまま短く答える。その姿に、こうしてしまった原因は自分なのだと思うと、夕鈴は胸が痛んだ。
 夕鈴は思った。まさか、こんな風に狼陛下がヤキモチを妬くなんて思ってもみなかった。いつもヤキモチを妬くのは、自分の方なのだから。

 よくよく考えてみたら、いつもいつも陛下の周りには見目麗しい女性達が居る。陛下の方こそ、女誑しで私だけが噛まれたのは不公平ではないかしら?今日だって!

 夕鈴の心に、ふつふつとある思いがこみ上げる。

 黎翔は腕の中の夕鈴が、いつもよりもおとなし過ぎると不安になって、顔を覗き込んだ。

「夕鈴?」

 夕鈴は、黎翔の腕が緩んだ隙に力一杯黎翔の着物にしがみ付いた。そしてーーーー。

0914-2


「痛っ」
 小犬の小さな悲鳴に、夕鈴はハッとして顔を上げた。思いの外強く噛み付いてしまったのかもしれない。夕鈴は慌てて、自分の歯型が薄く残る黎翔の肩を撫でた。
「ごめんなさいっ」
「いや……」
 黎翔は、小さな声で答える。そのまま、まるで幼子の様にしょんぼりとうな垂れた。
「そんなに嫌だったの?僕が噛み付いた事」
「違うんです!あ、違う訳でもないかな……」
 夕鈴は、しどろもどろになりながら説明する。
「陛下がおっしゃる様に、私だって、ヤキモチ妬いてるんです。今日だって私じゃない人が、陛下の肩に触れてーーーー」
「それって、浩大の事?!」
 驚きつつ吹き出す黎翔に、今度は夕鈴が小さくなりながら頷いた。
「はい……」
 黎翔は、笑いが止まらないまま夕鈴を抱き締める。

「ねえ夕鈴?」
「はい」
「口づけは無し、は、無しにしよう」
「どうしてですか?」
「私達には、うまく考えられないくらいが丁度いい」
「そうですね」
 
 夕鈴もまた、楽しそうにくすくすと笑いながら瞳を閉じた。
 


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