渾身 

原作寄り
黎夕








またもやぴいこ先生に唆されました・・・



堪らんです!

可愛いお話に挿し絵描かせていただきました~
\(^o^)/






【渾身】


「君の仕事は、なんだ?」
「縁談よけの為の、臨時花嫁。です」
「では、どうすべきか。わかるな?」
 政務中の様な狼陛下に詰め寄られ、夕鈴の背中に冷たい汗がつたう。
 迫り来る足音。夕鈴が選択する時間は後わずかしか無かった。



 時は数刻前へと遡る。



 普段通り、朝の支度をしようとしている夕鈴の元へ、普段より少し煌びやかな衣装を手に侍女達がやって来た。

「お妃様。本日はこちらを身につけるように、と申しつかっております。」
「そう。今日は何かあったかしら?」
 自分の記憶では特に予定はなく、掃除をしようと思っていたのだが。
「はい。急なお客様がおみえとか。わたくしも詳しくは存知上げないのですが……」
 申し訳なさそうに侍女は頭を下げた。
「いいのよ。陛下にお尋ねするわ」
 夕鈴は微笑みかけると、手早く着替えを済ませる。侍女達に丁寧に髪を梳ってもらい、花をさすと黎翔の部屋へと向かった。

 その途中の回廊で、李順と出会った。李順は、夕鈴をまじまじと眺めると「及第点、ですかね」と呟いた。李順は、夕鈴を迎えに来たのだ。
「李順さん。お客様がいらっしゃると聞いたのですが、どんな方なのですか?」
「その件ですが、歩きながらでお願いします。もう来ているので」
「はい」
 眉を顰めた李順の後ろを、夕鈴は神妙な面持ちで、大人しく付き従った。その様子を見た李順が口を開く。
「……、そんなに身構える事はありません。貴女にしていただきたいのは、普段通り縁談を断る事です。ただ……」
「ただ?」
「いえ。とにかく頼みましたよ。」
 そう言うと、陛下が謁見している部屋の前で李順は引き返す。
「失礼いたします」
 夕鈴が戸を開けると、「貴女が妃なの?!」と、驚いたように非難する女の声が響いた。
 いや、正しくは女の子、と、言うべきか。黎翔の対面に、父親であろう大臣の隣に座っているのは、黎翔の年の半分も達していないような幼女だった。
 縁談相手はどこなのかしら?夕鈴は、控えめに辺りを見回すが、控えている次官の他に居るのはこの親子二人だけだ。
 状況がつかめず夕鈴は、おずおずと黎翔の元へと歩み寄る。
 黎翔は、嬉しそうに少しホッとした様に夕鈴を膝の上に抱き上げた。

 思わず、ぎゃっと叫びそうになるのを夕鈴は堪えたが、赤くなる頬は抑えられない。
 そんな二人の様子を見ていた少女は鼻で笑うとこう言った。
「後宮の悪女も対したこと無いわね。やっぱりわたくしの方が何倍も陛下に相応しいわっ」
「これっ!何てことをっ!」
 隣で父親が慌てて嗜める。黎翔は、遠慮なく少女を睨みつけた。
「ほう……。我が妃を愚弄するか……?」
 並の官吏ならば倒れてしまいそうな冷たい怒気。夕鈴は慌てて黎翔の頬に触れて微笑んだ。
「私なら平気です」
「優しいことだ」
 黎翔の纏う空気が優しくなり、室内に居た全員がホッと胸を撫で下ろした。少女以外は。
 肝心の少女はケロリとしていた。父曰く、年の離れて出来た末妹であり、甘やかし過ぎたらしい。それ故、自由奔放であり、叱られ慣れてしまって居るのだ。それに、幼い故の怖いもの知らずなのも重なった。狼陛下の冷気を「知的で冷静でかっこいい」と、絶賛して居る。
 夕鈴は、僅かなやりとりで李順の憔悴振りが納得できる気がした。

「私は、末姫を妃に娶る気はない。それは分かるな?」
 黎翔が改めて言う。妃を娶る理由は、政略的なものや金銭的なものなど様々あるが、中でも大きいのは世継ぎを授かる事だ。どう考えても今の末姫には不可能だ。

「重々承知しております」
「では、本題にうつるか」

「え?」
 戸惑う夕鈴に、黎翔は耳打ちした。
「本当は、大臣を別の用事で呼んだんだ。だけど末姫が着いて来てしまったらしくてな」
 困った様に狼陛下で見つめられ、夕鈴の胸が高鳴った。
「話をする間、末姫と過ごしていてくれるか」
「はい」
 夕鈴は思わず引き受けてしまった。


「どうぞ。お口に合うといいけれど。」
 夕鈴は、お茶を淹れて末姫にさしださした。
「まあ、お茶の味は合格ね」
 末姫は、偉そうに言う。
「けれどやはり、陛下にはわたくしの方が相応しいわっ」
 幼い少女がきっぱりとそう言うのが、まるでママゴトの様で愛らしく、夕鈴はつい微笑んだ。それが、末姫には勘に触ったらしい。
「貴女、わたくしを馬鹿にしているの?!」
「い、いえ。そういうつもりじゃ……」
「だってそうじゃないっ!いわば、競争相手とも言えるわたくしに微笑みかけるなんて、大層余裕がお有りなのね。たった数年早く生まれたというだけで」
 睨みつける末姫。夕鈴は言葉に詰まった。今はまだ、確かに陛下の妃と言うには幼な過ぎるが、あと数年もしたら二人の年の差など、気にならなくなるだろう。
「それに、どうして陛下に抱きしめられたのに、あんなに身体を硬くしていたの?好きな人に触れられたら、もっと嬉しいはずだわ。誰かが見ているから恥ずかしいとか言うのは、陛下以外の事にきをとられている証拠よ!
 わたくしはそんなことしない。だからわたくしの方が陛下に相応しいのよ」
 夕鈴は言い返せなかった。全くその通りだ。幼いが故、まっすぐで純粋なのだ。誤魔化しは効かない。
 夕鈴は本音で答えることにした。
「確かにその通りね。けれど、私は陛下の為にお側に居たい」
「陛下の為だなんて……」
 口を挟もうとした末姫を夕鈴はまっすぐ見据えた。
「それに、陛下を思う気持ちでは、負けません」
 それは、夕鈴の素直な気持ちだった。
「ふんっ!そういう顔もできるんじゃないっ」
 末姫は、少し悔しそうに鼻の頭に皺を寄せると部屋を飛び出した。

「待ってっ」
 慌てて追いかける夕鈴。末姫は足が速く、直ぐに見失ってしまった。
 とにかく闇雲に、回路を走っていると、不意に腕を掴まれた。

「何をしている?」
「陛下っ!申し訳ありませんっ!末姫が……」
「それなら心配ない。もうすぐここへ来るだろう」
「え?」
 改めて辺りを見回すと、大臣と謁見した部屋の前だった。父に会いに来るのか、それとも狼陛下か。ともかくいつの間にか追い越していたらしい。
「末姫の様子はどうだ?」
「それが……」
 幼女に気迫で負けたなどとは言いづらい。まごつく夕鈴に、黎翔は余裕たっぷりの笑みでこう言った。
「口で勝てぬのならば、態度で示せば良い」
「態度で?!」
「君の仕事は、なんだ?」
「縁談よけの為の、臨時花嫁。です」
「では、どうすべきか。わかるな?」


 本当は、末姫が黎翔を諦めようと諦めまいと、直ぐにはこの縁談は成り立たない。
 黎翔にとっては少しからかっただけなのだ。夕鈴は今にも目を回しそうなほど悩んでいる。

 迫り来る末姫の足音。

 ここら辺が潮時か……。

 夕鈴を抱き上げて、連れ去ろうとしたその時ーーーー。

「陛下っ!」
 夕鈴は黎翔に口づけした。
 一瞬、驚いた黎翔だったが、優しく夕鈴の背中へと手を回す。

「な?!」
 そんな二人の様子を目撃した末姫は、踵を返して走り去る。

 小さな足音が遠ざかって、夕鈴はようやく唇をはなした。

「陛下、すみませんでした」
「いや、いい」

 目をギュッとつむり、当てずっぽうでの口づけは、黎翔の鼻の頭に落とされたのだった。


鼻ちゅ


「縁談除けとはいえ、私、私……!!」

 そこが唇では無かったと、当の夕鈴は気がついていないらしい。

 黎翔はクスクスと笑い出した。

「陛下?!どうなさったのですか?!」
「そうだなあ」
 黎翔は、笑ながら夕鈴を抱き上げた。
「次は、背伸びはもう少し控え目に、ね?」







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もう、堪らん可愛いです!(>_<)

ぴいこ先生、ありがとうございました~





SNSぴいこ様SS日記より抜粋
2014/06/12

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